今更聞けない、製薬業界の流通プロセス
本記事では、製薬業界に転職を目指す方やグローバルポジションを狙う方に向けて、世界の主要医薬品市場であるアメリカ、中国、日本、EU5(ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、スペイン)の医薬品流通プロセスを解説します。近年、直接取引や1社独占流通の増加傾向にある点を踏まえ、そもそも卸を活用すべきか否かの判断基準も含めて解説することで、単なる情報としてではなくなぜこうなっているかの根本理解につなげていただければ幸いです。
基本概念
医薬品の流通プロセスは、基本的には卸を活用するケースが多いのですが、そもそも卸を活用した方が良いかは、主に以下の5つの要素を基に判断されます。
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製品の大きさ
製品の大きさは配送車両の積載率(1台の車両にどれだけ製品を積載できるか)に影響します。製品が小さい医薬品は、1社の製品だけでは積載率が低くなってしまうのに対し、複数社の製品をまとめれば積載率を上げられるので、この観点から卸の方が効率的です。 -
製品の取り扱い難易度
温度管理が必要な製品や放射線医薬品のような特殊な医薬品では、専門的な車両や管理が求められます。積載率を考えると、卸を活用した方が効率的に思えますが、流通過程での積み下ろしや移動距離・時間の増加が、製品の毀損リスク増加につながります。このため、こうした製品は直接取引を選ぶことで、品質と安全性を確保するケースが増えています。
※直接取引の場合も、配送自体は専門業者に依頼するケースが基本です。
一方、取り扱いが容易な医薬品は卸の優位性が目立ちます。 -
配送先の集約度
配送先の集約度(もしくは密集度)は、配送ルートの最適化や配送頻度、配送拠点の配置など全体の配送効率に影響します。日本の場合、医療機関は約11万軒、薬局が約6万軒あり、一見すると集約度が高いように見えます。しかし、がんセンターや内科、耳鼻科など診療科ごとに施設が分かれ、それぞれが必要とする医薬品が異なるため、配送先は実際には分散しています。そのため、各製薬メーカーが個別に配送するよりも、卸の方が配送先の集約度を高められることから、卸の方が効率的です。 -
製品の価格
卸は多くの製品を取り扱うため、売値と仕入れ値の差を絶対額ではなくパーセンテージで評価するのが一般的です。このため、製品の価格は流通コストに大きな差をもたらさないのにも関わらず、高額な製品は卸の取り分が増え、メーカーが負担するコストが相対的に大きくなります。その結果、高額製品では卸を介さず直接取引を選ぶ方が経済合理性が高くなる場合があります。 -
顧客の経済規模
一般的に、大規模法人は与信リスクが低く、売上代金の回収も容易です。しかし、医療機関は一部の大規模病院を除けば小規模な法人が多く、与信管理や集金業務が複雑になります。何万軒もの医療機関と直接取引するよりも、数十社の卸を介して集金を一元化する方が効率的です。
※顧客となる医療機関側からしても、数十社の製薬メーカーと取引するより、1~数社の卸に集約した方が在庫管理や支払いの手間が省けるメリットもあります。
これら5つの要素を総合的に判断すると、医薬品流通では基本的に「医薬品メーカー → 卸 → 病院や薬局 」の流れが効率的なのに対し、高額医薬品や取り扱い難易度が高い製品は直接取引が優位になる場合があります。この基本概念を念頭に、次章では主要市場の流通状況の概要を紹介します。
主要市場での流通プロセス
医薬品の主要医薬品市場である、アメリカ、中国、日本、EU5(ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、スペイン)の特徴は以下の通りです。

日本とアメリカは卸の寡占化が進んでいるのに対し、地域毎に規制の異なるドイツ、フランス、イタリア、スペインは構造的に寡占化が進まない状況にあります。中国は卸が階層化されていた状況から政府主導で簡素化が進んでいるのと、イギリスに関しても統廃合の足枷となりうる強い理由が少ないことから、中長期的には寡占化が進むと推測されます。
どの国も、取り扱い難易度が高い医薬品や高額医薬品の直接取引が増加傾向にある点は一致しているのに対し、日本は直接取引より1社独占流通の形態を取る傾向が強いです。
これに関してはまた別記事で解説しますので、よろしければ読者登録していただけますと幸いです。
アメリカはPBM(Pharmacy Benefit Manager)と呼ばれる機関があり、業界外の人からすると卸と混乱することがあるのですが、アメリカは他国と違って価格抑制メカニズムがそこまで強くないので、薬局や医療機関がまとまって大量購入することで製薬メーカーに対する価格交渉力を高める為の機関であり、卸とは役割が異なります。
今回は以上となります!気になる点や質問等ございましたら、気軽にコメントください。
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